開封後も、本品らしい香りを伝えるために——香り見本の30日間追跡と、GC-MS・官能評価の考え方

香り見本は、外袋を開けて売場に置かれたその日から、何か月ものあいだ商品の香りを伝え続けることが求められます。では、開封した日の香りと30日後の香りは、どのように変わるのでしょうか。そして、時間が経っても、本品らしい香りを伝えられているのでしょうか。

香り見本に必要なのは、香りが長く残ることだけではありません。購入前のお客様が、商品本来の香りを確かめられることも大切です。だからこそ、持続性と再現性を考えるうえでは、時間とともに何がどう変わるかを確かめる必要があります。ここでは、開封後の香り見本を30日間追跡する検証の組み立て方を、プロモツール香り技術研究所の視点から整理します。実測結果の報告ではなく、調香師やフレグランスアナリストが何に着目し、どう判断していくのかをご紹介します。

なぜ「開封後」を追跡するのか

香りには、揮発しやすい成分と、揮発しにくい成分が含まれています。それぞれの成分の失われ方は、香料の組成や媒体、保管環境によって異なります。香り見本でも、時間が経つにつれて立ち上がりの香りが薄れ、香り全体のバランスが変わる可能性があります。そのため、香りの強さだけでなく、本品の香りの特徴が保たれているかを確認することが大切です。

プロモツールのプッシュタイプの香り見本「アロマテスター」は、アルミ袋と、開口部を1〜1.5mmに制御する独自構造によって自然な揮散を抑え、前面を押すことで香りが広がる設計です。香りの持続期間は約3か月から、長い場合には1年以上に及びます。※持続期間は香料によって異なります。

こうした持続性を考えるうえでは、香りが残っているかに加え、本品らしい香りが保たれているかを確かめる視点が欠かせません。開封後の追跡検証では、その変化を人の感覚と機器分析の両面から捉えます。

試香紙と香料サンプルを用いた香りの評価イメージ

香り見本の30日間追跡をどう設計するか

検証の信頼性を高めるには、条件を揃えることが大切です。最初に決めるのは、試料、評価の時点、対照の3点です。ここでは30日間の追跡を例に説明しますが、長期の持続性を確認する場合は、想定する使用期間に合わせて評価を継続します。

試料は同じ製造ロットから複数用意し、開封のタイミングを揃えます。保管条件は実際の売場を想定して温度や光を設定し、1日あたりのプッシュ回数も記録します。使われ方で揮散の速さが変わるため、「押さずに置いたままの試料」と「1日に決めた回数だけ押す試料」を分けて比較することも検討します。

評価の時点は、開封直後を基準に、1日後、3日後、7日後、14日後、30日後といった形で設定します。初期の変化を細かく捉えるため、前半の評価間隔を短く設定します。

対照には、未開封のまま同一条件で保管した見本と、製品本品そのものを用意します。生じた変化が「開封によるもの」なのか「保管環境によるもの」なのかを切り分けるためです。

官能評価は、訓練された評価者がブラインドで行う

官能評価とは、人が実際に香りを嗅ぎ、その強さや特徴、違いを評価する手法です。評価者の選定や訓練に加え、香りを嗅ぐ環境や提示方法を揃えることで、評価者ごとの感じ方のばらつきを抑えます。

検証を設計する際は、製品本品との比較に加え、開封直後の見本からの変化にも着目します。調香師などの評価者が、香りの強さ、香調のバランス、立ち上がりから残り香への移り変わり、媒体由来の違和感の有無を項目ごとに記録します。

試料には記号を割り当てて時点を伏せ、提示する順序を入れ替えながら、複数回の試行で同じ差が再現されるかを確認します。「少し軽くなった」という印象にとどめず、どの特徴がどう変化したのかまで言葉にすることが、その後の判断につながります。

GC-MSで何が見えて、何が見えないか

ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)は、香料に含まれる数多くの揮発性成分を分離し、成分単位で捉える機器分析です。各時点で試料周辺の気体を採取するヘッドスペース分析を、採取条件を揃えて行うことで、揮散する成分の構成や検出量の変化を比較できます。これにより、どの成分が減り、どの成分が相対的に残っているのかを検討する手がかりが得られます。

ただし、検出量の増減が、そのまま人の感じ方の変化と一致するとは限りません。ごく微量でも印象を左右する成分もあれば、多く検出されても目立たない成分もあります。機器分析は、調香師が感じ取った変化を裏づけ、その要因を探るための手段です。

2つの結果を照らし合わせて判断する

官能評価と機器分析の結果は、時点ごとに照らし合わせながら読み解きます。たとえば、官能評価で「柑橘系の立ち上がりが弱くなった」という所見があり、GC-MSでも揮発性の高い成分の比率が下がっていれば、香りが変化した理由を説明できます。

この場合、見直す方向としては、香料の配合バランスや賦香量を調整する方法と、香り見本の構造や使用・保管条件を見直す方法が考えられます。開封直後の再現性と、時間が経過した後の再現性の両方を確認しながら、調整を進めます。(※化粧品本品の香りを再現する調整プロセスについては、コラム「香り見本はどこまで化粧品本品の香りを再現できるのか」でも詳しく解説しています。)どちらを選ぶかは、本品の香りをどこまで忠実に再現したいか、見本をどのくらいの期間使う計画なのかによって決まります。

一方で、官能評価では差が出たのに分析データに明確な変化が見られない場合は、評価条件や試料のばらつきに加え、採取・分析条件でその違いを捉えられているかも確認します。人の感覚と機器分析の結果が食い違ったときこそ、両方の結果を手がかりに、原因を丁寧に調べることが大切です。

香料ボトルと試香紙、柑橘やスパイスを使った調香のイメージ

プロモツール香り技術研究所の体制

プロモツールの香り技術研究所には、日本を代表する調香師である所長・マスター調香師の渡辺武志をはじめとする調香師陣と、成分分析を手がけるフレグランスアナリスト・西野静恵が揃っています。GC-MSを保有し、香料の成分分析や品質管理に活用しながら、調香師の感覚と分析データの両面から香りづくりに取り組んでいます。

香り見本「アロマテスター」は、2026年7月時点で累計販売数1,250万個を突破しました。化粧品や日用品に加え、飲料や菓子など、幅広い商品の香りを購入前のお客様に伝えるツールとして採用されています。商品の香りを売場で伝えるために、調香技術と香り見本の構造設計を組み合わせています。

「長く香る」と「本品らしく香る」を、両立するために

香り見本の持続性は、設計によって生み出され、検証によって裏づけられます。開封後の変化を時点ごとに追い、調香師の言葉と分析の数値を突き合わせることで、香りの強さだけでなく、本品らしい香りが保たれているかを確かめられます。

売場で香り見本に触れるお客様にとって、その香りは商品を選ぶ大切な手がかりです。だからこそ、長く香ることと、商品の特徴を正しく伝えることの両立を目指します。

香り見本の持続性や再現性に関心をお持ちの方は、対象となる本品と想定する使用期間・設置環境を添えて、香り見本(アロマテスター)の制作・導入相談(プロモツール)へご相談ください。

香りを製品にする仕事や調香師の視点については、調香師のアトリエでもご紹介しています。

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